探索開始

目の前にあった毛むくじゃらの塊が蠢き、襲い掛かってきた。
アシタバがそれを理解したのは、半ば反射的に抜き放った剣で、一尺ほどもある爪の一撃を受け止めた後だった。全身の鳥肌が立つ。
巨大なモグラとでも形容できそうなその生物の腹を蹴り飛ばし、間合いを取り直して一息つくと、アシタバはひとりごちた。
そうか、こりゃ戦なんだな。
自分の初陣を思い出す。圧力を持って迫り来る太鼓のリズムと男たちの怒声は無いが、あの時戦場に充満していた空気がここにあった。
殺意だ。
剣を握りなおす。知らず手に汗をかいていた。出発前に手袋を手に入れていなければ、手元が怪しくなっていたかもしれない。そこで、初めて周りを確認する余裕ができた。
アシタバの右手を歩いていた新兵、イチムは剣を抜く暇も無かったらしく、腕から血を流していた。股間も重く湿っているようだ。おそらく漏らしている。それでも悲鳴を噛み殺し、後衛の不安を煽らないよう努力していることは評価できた。
アシタバさん、行きます!」
 叫びながら、後衛のウキヨが矢を放った。モグラが矢を受けて怯んだ隙に、頭の辺りをめがけて剣を突き入れる。重い手ごたえ。
右手ではオキナの起動した炎が立ち上り、モグラが長い悲鳴をあげていた。
剣を引き抜きながら頭の中で手順を整理する。
まずはウキヨに周囲の警戒を命じ、エツにイチムの怪我の具合を確かめさせる。しかる後にモグラの皮を剥ぎ、持ち帰る。
鼻をつく焦げた肉の臭気に顔をしかめながらそこまで考え、ふと気づいた。
オキナの餓鬼め、燃やしちまったら皮も身も台無しじゃねえか!
彼らと、彼らの帰りを待つ食い詰めのために、出来る限り多くのものをここから持ち帰ること。それがアシタバたちの使命であった。